遺贈と死因贈与の違いは何ですか?
1 遺贈と死因贈与の意味
遺贈は、財産を有している人が、相続が発生したときには、ある人に財産を引き継ぐことを遺言で定めることを言います。
死因贈与は、財産を有している人とある人とが、相続が発生したときには、ある人に財産を引き継ぐことを合意することを言います。
ここまでの説明だけですと、遺贈と死因贈与がどのように異なるのか、明確には分かりにくいと思います。
ここでは、遺贈と死因贈与の違いについて、どのような場面でどちらを用いるのが望ましいかという点から、説明を行いたいと思います。
2 多くの場合、遺贈の方が望ましい
遺贈は、法律で定められた財産譲渡の形式であり、多くの場面で用いられています。
他方、死因贈与については、実際に利用される場面は少ないです。
これは、遺贈に以下のような利点があるからであると考えられます。
① 手続をスムーズに進めることができる
遺贈は、広く用いられている方法ですので、払戻や名義変更の手続をスムーズに進めることができます。
遺言の押印についても、認印でも手続を進めることができ、被相続人の印鑑証明書の提出を求められることもありません。
他方、死因贈与については、広く用いられている方法ではないため、金融機関や証券会社等の処理に時間を要します。
また、死因贈与契約書に被相続人の実印が押印してあり、被相続人の印鑑証明書を提出できる場合に限り、手続を進めることができるとの考えを取っているところもあり、これらの条件を満たさなければ、そもそも手続を進めることができなくなってしまいます。
② 税金を抑えられることがある
不動産の名義変更に際し、税金が課税されることがあります。
遺贈については、登記申請を行うと、登録免許税が2%の税率で課税され、不動産取得税が3%前後の税率で課税されることとなります。
ただ、遺贈を受けたのが相続人である場合は、登録免許税の税率が0.4%になり、不動産取得税については課税されないこととなります。
他方、死因贈与については、相続人であるかどうかにかかわりなく、登録免許税の税率が一律2%になり、不動産取得税も3%前後の税率で課税されることとなります。
このように、受贈者が相続人である場合は、死因贈与の方が、登録免許税も不動産取得税も高額になります。
3 死因贈与が用いられる場合
このように、基本的には、遺贈を用いた方が、手続がスムーズになり、税負担も軽減される可能性がありますが、一定の場合には、死因贈与を用いた方が良いことがあります。
それは、次のような場合です。
① 遺言の作成が困難である場合
遺贈については、必ず遺言で行う必要があります。
もっとも、贈与者が自書することができず、死期が迫っている場合には、自筆証書遺言を作成することができず、公正証書遺言の作成を行うための手配を行うことも困難です。
危急時遺言についても、証人を準備し、一定の手順を踏む必要があります。
このような場合、死因贈与契約書を作成することが考えられます。
死因贈与契約書については、贈与者が本文を自書する必要がなく印字しても構いませんし、氏名を記名押印等することもできます。
さらに、理屈上は、口頭でも死因贈与契約を行うことができます。
② 負担付である場合に贈与者のみの意思で撤回することができない
遺贈も死因贈与も、財産を受け取る人に対し、財産を譲渡する代わりに、一定の義務を負わせることができます。
たとえば、死因贈与をする代わりに、贈与者の介護を行うことを義務付けるといったものが考えられます。
このような負担付遺贈は、遺贈者の意思のみで撤回することができます。
このため、負担付遺贈の場合は、負担を履行しているにもかかわらず、遺贈者の意思のみで遺贈が撤回されるということが起こり得ます。
これに対し、負担付死因贈与の場合は、負担を履行しているのであれば、贈与者の意思のみで死因贈与を撤回することはできないこととなっています。
このため、受遺者にとっては、負担付とする場合は、死因贈与の方が、権利が保護されており、安心できると言うことができます。