遺言の失敗事例
1 相続人以外の人に財産を残したかった事例
遺言者は、相続人との折り合いが悪く、相続人以外の人に財産を残すことを希望していました。
遺言者は、自筆で、Aにすべての財産を遺贈するとの内容の遺言を作成しました。
その後、遺言者が亡くなり、Aは、遺言に基づいて、遺言者の不動産や預貯金の名義変更や払戻を試みました。
ところが、この段階になって、不動産や預貯金の名義変更や払戻を行うためには、相続人全員に、手続書類に実印を押印し、3か月以内に発行された印鑑証明書を交付してもらう必要があることが判明しました。
Aは、相続人に連絡をとったものの、相続人からは、「ハンコ代」として相続分相当の金銭を支払わなければ、協力はしないとの回答がなされました。
こうした事態になった場合、不動産や預貯金の名義変更や払戻を行うためには、家庭裁判所で遺言執行者の選任申立を行い、家庭裁判所の決定を得るか、地方裁判所か簡易裁判所で不動産の名義変更や預貯金の帰属の確認を求める訴訟を行い、地方裁判所か簡易裁判所の判決を得る必要があります。
このため、手続を完了するのに要する時間が長くなりますし、手続の過程で相続人の側から法的主張がなされた場合、手続が停止してしまう可能性もあります。
こうした事態を避けるためには、あらかじめ、遺言で遺言執行者を定めておいた方が良かったと言えます。
遺言執行者を定めておけば、相続人全員の押印ではなく、遺言執行者の押印を得ることにより、手続を進めることができます。
遺言執行者には、財産を受けとる予定のAを指定することも可能です。
2 遺言執行者が遺言執行することができなくなった事例
遺言者は、遺言執行者を知り合いであるBに指定するとの遺言を作成しました。
その後、遺言者が亡くなり、遺言執行を行うべき段階に至りました。
しかし、遺言者が亡くなった時点で、Bは重度のアルツハイマー型認知症に罹患しており、遺言執行を行うことはできなくなっていました。
このような場合、代わりの遺言執行者を選任しなければ、遺言執行を行うことはできません。
代わりの遺言執行者を選任するためには、家庭裁判所で遺言執行者選任申立を行う必要があります。
もっとも、こうした手続を完了するためには、時間が必要になりますし、候補者としてあげた人が遺言執行者に選任されず、家庭裁判所が選任した第三者に費用を支払って遺言執行を委ねる必要が出てくる可能性もあります。
こうした事態を避けるためには、遺言で、あらかじめ、「Bが遺言執行者に就任しない場合はCを遺言執行者に指定する」という予備的条項を設けておくと良いでしょう。