遺言が必要なケースとは
1 相続人間で遺産分割方法についての意見対立が生じる可能性がある場合
相続が発生し、遺言が存在しない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議は、必ず、相続人全員の合意に基づいて行う必要があります。
このため、相続人間で意見対立がある場合には、意見がまとまらないため遺産分割を完了することができず、相続の手続がいつまでも完了しないこととなりかねません。
遺言を作成しておくと、遺言で誰がどの財産を取得するかを決めておくことができ、相続人全員で遺産分割協議を行う必要がなくなります。
このため、遺言を作成しておけば、相続人間で意見対立があったとしても、相続の手続を完了することができます。
2 相続人同士が連絡を取ることが困難である場合
先述のとおり、遺産分割協議は、相続人全員の合意に基づいて行うこととなります。
このため、相続人同士が連絡を取ることが困難でしたら、そもそも遺産分割協議を進めることができず、相続の手続を完了することもできないこととなります。
たとえば、被相続人の兄弟姉妹や甥姪が相続人になる場合には、遠縁の親族同士となり、互いにまったく交流がないということが起こりやすいでしょう。
このような場合は、連絡を取り合うだけでも困難なことがあり、遺産分割協議が難航しやすいです。
そこで、遺言を作成しておくと、相続人同士が連絡を取り合わなくても、相続手続を進めることができます。
3 判断能力を有しない相続人がいる場合
認知症や事故のため、相続人の一部が判断能力を失っていることがあります。
このような場合は、相続人全員で有効な合意を行うことが不可能ですので、そのままでは遺産分割協議を進めることができません。
判断能力を有しない相続人に後見人が就任すれば、後見人が当事者となって遺産分割協議を進めることができるようになりますが、誰がどのようにして後見開始申立を行うかという問題が生じますし、後見人が就任して遺産分割協議を終えるまで、かなりの時間を要することにもなってしまいます。
このような場合も、あらかじめ遺言を作成しておけば、遺産分割協議を行う必要がなくなりますので、後見人を選任することなく、相続手続を終えることができることとなります。
4 国外に居住する相続人がいる場合
国外に居住する相続人がいる場合には、連絡をとることが困難なときがあると思います。
また、国外に居住している人については、印鑑証明を取得することができないため、遺産分割協議書に実印を添付することができず、法務局や証券会社、金融機関の手続を進めることができません。
領事館でサイン証明を取得すれば、印鑑証明と同じ機能を発揮しますが、領事館での手続等に手間取ることがあります。
さらに、日本国籍を有しなくなってしまっていると、戸籍に親族関係が反映されなくなってしまうため、誰が相続人になるかを公的に証明することができず、やはり相続手続を進めることができなくなってしまいます。
領事館で家族証明を取得したり、戸籍に類する制度のある国であれば、戸籍に類する証明書を取得したりすれば、戸籍と同じ機能を発揮しますが、家族証明や戸籍に類する証明書の取得には、サイン証明以上に手間がかかります。
また、相続手続に際しては、外国語で発行された証明書の翻訳文を添付すべき場合があります。
このように、国外に居住する相続人がいる場合には、相続手続が難航することがあります。
こうした場合も、遺言を作成しておけば、領事館で厄介な手続を行わなくても、相続手続を終えることができます。
5 外国籍の相続人がいる場合
外国籍の人が被相続人と結婚している場合等には、外国籍の人が相続人になることがあります。
このような場合も、同様に、領事館で家族証明を取得したり、戸籍に類する制度のある国であれば、戸籍に類する証明書を取得したりすれば、相続手続を進めることができますが、先述のとおり、手続が複雑になってしまいます。
このため、あらかじめ遺言を作成しておき、スムーズに相続手続を進めることができるようにしておく必要性が大きいと言えます。
6 各相続人の相続分を変更したい場合
相続人全員で合意ができる場合には、各相続人が取得する財産の割合を自由に変更することができます。
しかし、相続人全員で合意ができない場合には、法律の定める相続分により、各相続人が取得する財産の割合が決まってしまいます。
遺言では、法律の定める相続分を変更し、各相続人が取得する財産の割合を自由に指定することができます。
このように、各相続人が取得する財産の割合を変更したい場合も、遺言を作成しておく必要があると言えます。
7 相続人以外に財産を渡したい場合
法律の定める相続の制度では、法律の定める一定の親族しか、相続財産を取得することができません。
相続人以外は、法律の規定では、相続財産を相続することはできないのです。
もちろん、相続人が一旦財産を取得し、相続人以外の人に財産を譲渡すれば、相続人以外の人の名義に変更することもできなくはないですが、相続人がこのような手続に協力してくれるかという問題がありますし、相続ではなく贈与で財産を取得したものと扱われてしまうため、多額の贈与税が課される可能性があるという問題も生じます。
遺言を作成しておけば、相続人以外の人であっても被相続人から相続財産を引き継ぐことができます。
遺言執行者を定めておけば、遺言執行者の協力により、財産の引き継ぎの手続を進めることもできます。
8 死後認知を行いたい場合
婚外子がいる場合に、戸籍上も自分の子とするためには、認知の手続を行う必要があります。
ただ、生前は、家族との関係上、認知をすることが困難であるということもあり得るところです。
遺言で死後認知するとの定めを設けておくことにより、自分の死後に婚外子を認知することができます。
このような場合には、自分の死後に死後認知の手続を行うため、遺言で遺言執行者を定めておくか、家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらう必要があります。
9 死後に相続人の廃除を行いたい場合
将来、自分の相続人となる人(推定相続人と言います)が、自分に対して虐待を行ったり、著しい非行に走ったりしている場合には、家庭裁判所で廃除の手続を取ることにより、推定相続人について相続人の地位を喪失させることができます。
廃除された推定相続人は、相続権を失い、遺留分の主張もできないこととなります。
しかし、生前中は、廃除された推定相続人から報復がされるおそれがあるため、廃除の手続を取ることが困難であることもあると思います。
このような場合も、遺言で自分の死後に推定相続人を廃除するとの定めを設けておくことができます。
これにより、自分の死後、家庭裁判所で廃除の手続を取ることにより、相続人の相続権を失わせることができます。
この場合も、同様に、死後に手続を行うため、遺言で遺言執行者が定めておくか、家庭裁判所で遺言執行者を選任する必要があります。