他の相続人がすでに別の税理士に依頼しています。同じ税理士に依頼しなければならないのでしょうか?
1 相続税申告では,別の税理士に依頼しても良い
亡くなった方の相続人が複数いる場合には,基本的にはすべての相続人が相続税の申告しなければならないこととなります。
この場合,申告書については,1つの相続税申告書に複数の相続人が連名で押印し,共同で申告を行うことがしばしばあります。
このような場合には,相続人の誰かが1人の税理士に相談し,その税理士が申告書を作成するという流れになることが多いでしょう。
もっとも,相続税については,必ず1つの申告書に連名で押印したものを提出しなければならないわけではありません。
たとえば,他の相続人が依頼した税理士が信頼できず,その税理士に頼みたくない場合には,別の税理士に依頼し,申告書を作成してもらうことも考えられます。
また,申告書の内容について意見の違いがある場合には,ご自身の意見を踏まえた内容の申告書を作成し,別々に申告書を提出することとなるでしょう。
以下では,別々の税理士に依頼することが多い例について,詳しく説明したいと思います。
2 他の相続人が依頼した税理士が信頼できない場合
⑴ 税理士によって申告書の内容は大きく異なる
前提として,相続税は,税理士によって,申告書の内容が大きく異なる税目であると言われています。
この点の違いが顕著に現れるのが,土地の評価です。
土地については,路線価地域ですと,路線価に面積を掛け算することで算定できると言われることもありますが,実際には,奥行価格補正,間口狭小補正,奥行長大補正,不整形地の評価減,無道路地の評価減,がけ地補正等の様々な修正要素が存在します。
津でしたら,区画整理されていない土地も多く,これらの補正をフルに用いるべき場面が多いように思います。
中には,地積規模の大きい土地の評価減,都市計画道路予定地の評価減,市街化調整区域内の雑種地のしんしゃく割合(宅地比準の場合)等,都市計画法等の関連規定を把握していなければ,対応できないものもあります。
場合によっては,津の市役所に赴き,都市計画法等の規制を市の職員に確認すべきこともあります。
さらには,土地が整地されていない場合,傾斜がある場合,騒音が著しい場合等,現地を訪れなければ,評価減の対象になることすら気づかないような場合もあります。
これらの修正要素を適切に適用し,適正に土地の評価額を減額できるかどうかにより,土地の評価額は大きく異なることとなり,結果として,相続税の額も大きく異なり得ることとなるのです。
⑵ 相続税に詳しい税理士は想像以上に少ない
そして,相続税に詳しく,適正な土地の評価減等ができる税理士は,想像以上に少ないです。
これは,多くの税理士は,関与先から継続的に所得税・法人税の申告の依頼を受けているものの,相続税については,関与先の関係者が亡くなった場合にのみ依頼を受けるに過ぎず,結果的に相続税申告を行う場面が少なくなることによるものです。
このため,他の相続人が,たとえば,普段,確定申告を依頼している税理士に相続税の申告も依頼したとしても,その税理士が相続税に詳しい税理士であるとは限らないことになるのです。
こうした事情等から,他の相続人が依頼した税理士が信頼できないと思われる場合には,別の税理士に依頼することも考えられることです。
3 申告書の内容について意見の違いがある場合
⑴ 申告書の内容について意見の相違が生じることがある
申告書については,おおむね,できるだけ課税すべき相続税の額が減少するような内容のものであれば,全員が異論なく申告書に押印するのではないかと思われがちです。
ところが,現実には,申告書の内容について意見の相違があり,全員が共同で申告することができないといった場合があり得ます。
⑵ 具体例
こうした例として,亡くなった方の預貯金口座から,生前に多額の出金がなされており,特定の相続人が出金された現金を自分のものにしたのではないかという疑いがある場合を挙げることができます。
このような場合には,出金された現金を相続財産として挙げるべきかどうかが争いになることがあります。
特定の相続人が出金分を自分のものにしていないと回答したとしても,亡くなった方が認知症であった,日常生活動作が困難であった等の事情により,到底財産管理をできたとは思えないような場合には,このような回答が嘘であると推定されることがあり得ます。
このような場合,他の相続人としては,出金された現金を相続財産として挙げることとなることも多いでしょう。
これを相続財産として挙げなければ,特定の相続人の嘘であると推定される回答を追認したと言われかねないですし,最悪の場合には,税務署から,相続財産隠しに加担したとされる可能性があるからです。
他方,特定の相続人は,決して,出金した現金を相続財産として挙げることはないでしょう。
このような場合には,申告書の内容についての意見の一致は期待できず,別々の税理士に依頼して申告することとなります。
津の案件でも,出金した現金が相続財産となるかどうかが裁判所で争われるまでに至っており,相続税については,原告と被告とで別々に申告しなければならなかった例がありました。
4 別の税理士に依頼することを検討されている方へ
このように,他の相続人がすでに税理士に依頼しているとしても,同じ税理士に依頼しなければならないというわけではありません。
心情的に同じ税理士に依頼することができないということもあるでしょうし,同じ税理士に依頼することにより,自分にとって不利な事態に陥ることもあり得ます。
当法人は,別の税理士に依頼したいというご相談もお受けしています。
申告期限までに相続税の申告をしていないのですが,どうすれば良いのでしょうか? 障害者手帳の交付を受けていない場合には、相続税の障害者控除を利用することはできないのでしょうか?